長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典とイスラエル
投稿日時:
2024/08/10
著者:
ベチャール
今年(2024年)の長崎(8月9日)の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に、イスラエルが招待されなかったことをめぐる問題は、まさに世界史が日本の中に「連動」していることをはっきりと示している。米、英、仏、独、EUなどの政府が長崎市の行事に口を出すというのは、国際法的にどうなのかという問題や、日本政府はいかに国民を代表していないのかという問題もあるが、ここでは二つの事を指摘しておきたい。
先ず、米、英、仏、独、EUなどが、ロシアやベラルーシと違い、イスラエルはハマスの攻撃に対して、「自衛権」を行使しているのだから、式典に招待すべきだと主張している。このことは、現在のガザ戦争の理解をそのまま持ち込んできている重要な論点なのである。
2023年10月7日のハマスの攻撃に対するイスラエルの反撃は、国連憲章に認められた「自衛権」の行使であるというのは、イスラエルを始め米英EUなどの政府の立場である。しかし、ガザでの国連職員らは、事実上イスラエルによる軍事占領の状態にあったガザは、独立した国家ではなく、そこからの攻撃は、国家と国家のあいだの軍事争いではなく、いわば植民地独立戦争に匹敵すると考えている。また、かりにイスラエルの当初の「自衛権」を認めるとしても、すでにその範囲を逸脱しているのではないかという広い意見もある。だから、イスラエルは、「自衛権」を行使しているのだから、式典に招待すべきだと主張は、一方的な主張でしかない。
次に、イスラエルはジェノサイドを行なっていると南アによって国際司法裁判所に訴えられていて、それは、裁判所もある程度これを認めている。つまり、2024年1月25日、国際司法裁判所は、昨年12月30日に南アフリカがイスラエルのガザ攻撃を「ジェノサイド」だとして訴えた件につき、ジェノサイドを行わせない・扇動しないなどの暫定措置を命じたのである(「世界史への眼」2024年1月31日 世界史研究所)。日本ではあまり報道されていないが、南アの提訴は、グローバル・サウスの国々から広く支持されている。少なくとも国際的にそのような疑いをかけられているイスラエルを、米、英、仏、独、EUなどは擁護するのであろうか。
加えて、イスラエルによるハマス政治指導者ハニア氏の暗殺疑惑がある中、米、英、仏、独、EUなどはどのような理屈でイスラエルを支持するのであろうか。原爆慰霊祭に長崎市がイスラエルを招かなかったのは、全く不思議なことではない。逆にイスラエルを招いた広島市はどういう議論をしたのであろうか。