79年目の「原爆の日」

投稿日時:
2024/09/10
著者:
カックン

 8月6日、今年も米国が広島に原爆を投下して79年目の「原爆の日」を迎えた。平和記念公園での式典をテレビ中継で約1時間見た。

 私は1941年に誕生後、父の赴任地である広島へ母と行き、幼児期を過ごした。太平洋戦争が激しくなり、赤紙が来ることを予想した父は,親戚の勧めも あって,自ら軍属を志願してインドネシアのスマトラ島へ赴任した。原爆投下の前年、1944年のことで,私は母と東京へ戻ったため、原爆の惨禍に会わないで済んだ。その後、83歳の今日まで生きられたのは、今から顧みて、全くの幸運だったと言わざるを得ない。

 これは個人的な所感だが、原爆に対する、私のかねてからの問題意識は次の2点である。

① 米国が広島、長崎に原爆を投下し、非戦闘員である市民を一瞬にして無差別、大量に殺戮したことは、人道上の責任はもとより国際法上の責任があるのではないか。

② 日本政府は何故核兵器禁止条約に署名しないか。

① について、

 米国は,1942年6月にマンハッタン計画で原爆開発を開始、1945年7月に爆発実験を成功させ、戦争終結を目指してトルーマン大統領は日本への使用を決定した。当時の戦況は既に米国が有利であり、軍幹部はその投下に反対した。原爆の使用なしでも勝てると見ていたからだと思う。トルーマンは、原爆投下には、ソ連の勢力拡大を阻止する目的があること、また,マンハッタン計画が20億ドルの巨費を投じたことを国民に正当化するため、極めて政治的理由で投下を決定したとも言われている。決定にあたって、事前通告もなしに、無差別大量に殺戮する原爆投下の結果がどんな惨禍をもたらすか検討したのか、疑問である。

 原爆投下直後の1945年8月10日に、日本政府はスイス政府を通じて、米国政府に、「米国が今回使用したる本件爆弾は、その性能の無差別かつ残虐性において、従来かかる性能を有するが故に使用を禁止せらるる毒ガスその他の兵器をはるかに凌駕しおれり。(中略) 無差別残虐性を有する本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たなる罪悪なり」と抗議した。

 これは、当時の政府としては正当な抗議であったと思う。敗戦後の極東国際軍事裁判(1946~48年)で,インドのパール判事は、(米国の)原爆使用を決定した政策こそがナチスによるホロコースト(国家による非戦闘員の生命財産の無差別破壊)に唯一比例する行為」と厳しく論じた。

 1963年12月に言い渡された東京原爆裁判(下田事件)に対する東京地裁判決は、原爆投下の国際法上の評価について、「広島市には約33万人、長崎市には約27万人の一般市民がその住居を構えていたことは明らかである。したがって、原子爆弾による襲撃が仮に軍事目標のみをその攻撃の目的としたとしても、原子爆弾の巨大な破壊力から盲目襲撃と同様の結果を生ずるものである以上、広島,長崎両市に対する無差別爆撃として,当時の国際法からみて、違法な戦闘行為であると解するのが相当である」としている。

 敗戦後、日本政府は、原爆投下に対し米国政府に正式に抗議していない。自国の安全保障を米国の核抑止力に頼ってきたためだろう。だからと言って,私は,米国が原爆投下による無差別大量殺戮の責任がないとは思わない。

 翻って、2発の原爆を落とされる惨禍を招いたことは、太平洋戦争を始めた当時の日本の為政者達(昭和天皇も含む)の責任は極めて大きいと言わねばならない。

② について、

 政府の態度を知るために、今年の式典における岸田首相の挨拶の全文を丹念に読んでみた。

 冒頭の部分で,「広島、長崎にもたらされた惨禍,人々の苦しみは2度と繰り返してはなりません」、「非核三原則を堅持する」、「『核兵器のない世界』の実現に向けて努力を積み重ねていくことは、唯一の戦争被爆国である我が国の使命」と首相は言っている。また、結びの部分で、「核兵器のない世界と恒久平和の実現に向けて力を尽くす」とも誓っている。

 これだけの決意を表明するのであれば、政府は,あらゆる手段を使って具体的に行動すべきと考える。

 確かに,日本は、核兵器不拡散条約(1968年7月1日署名)の維持・推進、核兵器用の核分裂性物質の生産禁止条約の推進、核兵器国・非核兵器国を含むFMCTフレンズ(注*)の枠組み作りには着手しているが、原爆を2発も投下された被爆国日本が核兵器をなくすことが人類の理想であり、究極の願いであるとするならば、何をおいても核兵器禁止条約にこそ参加すべきである。

 米国に気兼ねすることなく、米国の大統領と差しで話し合い、日本が独自の立場で核兵器禁止条約に署名することを説得することこそが、日本の総理大臣の務めと考える。

 日本政府は、原爆の悲惨さ、怖さについて、今の時期だからこそ、もっと世界の国々、特に核保有国に対しあらゆる手段で訴えるべきだろう。

 注*)核兵器国及び非核兵器国からなる地域横断的グループ;12か国参加

[参考文献]

1.原爆資料館展示資料
2.田中利幸『犯罪と責任:無差別爆撃と大量虐殺』広島平和研究所、2009年
3.『朝日新聞』(2024年8月7日付)
4.衆議院文書(2007年7月3日)