スマホ1年生のつぶやき

投稿日時:
2024/05/10
著者:
もののけ姫

 数か月前に20年以上も使っていたいわゆるガラケーからスマホに替えた。いまだに使い方に慣れておらず、特に電話の着発信には失敗が多い。そもそも、携帯で電話をすることはこれまでもほとんどなく、メールの受信もPCやiPadで事足りていたので、積極的にガラケーからスマホに切り替える必要性はなかった。だが、仕事上、どうしても必要なアプリがスマホでしか利用できず、渋々切り替えたというのが実情である。

 確かに今のスマホは、ほぼPCの機能を兼ね備えていると言っても過言ではないかもしれない。ある程度の範囲までは拡大は可能だが画面は小さく、老眼にとってそれだけは辛いところであるが、それに慣れればメールの送受信はむろんのこと、どこにいても国内外のありとあらゆる情報に瞬時にしてアクセスできるのである。そしてこれに関連して思うことは、今や多くの人が利用するSNSのツールである。Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、 Lineなど、メール機能の付いた情報共有アプリは今や多くの人が利用しており、もはや日常のアイテムとなっている。最近では、病院などの予約などもLineに登録しないとできないところも増えている。

 私の年代、いや私以上の年代でも、このようなツールを難なく使いこなして、盛んに情報を発信している方々も多い。毎日、何度もブログを更新したり、今食べた食事や自分の現在いる場所など、明らかに個人情報と思えるものもネット記事のあちらこちらで目にする。

 個人的には、このような情報発信の仕方は好まないので、私自身は自分から発信することは決してない。一方、ネット利用の検索は大変便利であるので、何かわからないことがあればまずはネットで「ググる」。また電子媒体の記事も格段に増えて充実しており、この頃では紙媒体ではなく電子媒体のみの発信をしているところも多い。私が参考にしている「某記事」もそうである。もはや身近にこのような情報が溢れていて、現代の私たちはその嵐の真っただ中にいるのである。

 振り返ってみると、今から500年ほど前、歴史上「情報革命」と言われる時代があった。ちょうど宗教改革の時期にあたり、当時の活版印刷術や木版画は、以前とは比べ物にならないくらいの速さで多くの新しい情報を社会の隅々にまで行き渡らせた。文字が書かれた書物を多くの人がいち早く手に取ることにより、特にリテラシーのある人々にとっては、これまでの「写本」の時代とは比較にならないほどの知識量が増えたことであろう。そして平明な木版画を通して、社会の底辺に暮らす決して豊かではない一般の人々にも、新しい宗教の息吹が伝わった。宗教改革成功の背景には、このような理由があることがよく知られている[i]。

 そしてそれから500年後、前世紀末から今世紀にかけて、私たちは新しい「情報革命」インターネットと出遭うことになる。ネットを通じて様々な情報が拡散し、チュニジアで始まったアラブの春がそうであるように、既存の体制をも覆す大きな社会混乱を引き起こすものさえ出現した。そして今も加速度的に進展するさまざまなIT技術は、良くも悪くも私たちの生活そのものを一変させた。たとえば人との通信手段はメールあるいはSMSが一般的になり、最近の郵便事情は配達日数も含めて以前の倍近くかかるようになってきていることを考えれば、迅速な通信のツールとしてもはや十分に機能しているとは言い難い。

 ただここで付け加えておかねばならないことがある。これほどネット情報が溢れ、そして学術論文もリポジトリから誰でもアクセス可能になった現在でも、一部の人(特に60代後半以上のいわゆる高齢者と言われる年代)の中には、そのようなツールを拒否、あるいは使いこなそうという努力をしていない人も周囲に見受けられる。もちろん電子データのみではなく、本などの紙媒体が有効な場合も時としてあり得る。だが特にこの年代では、進取の気性に富む人と、従来の伝統にしがみつく人との間に大きな差異が見られるように感ずる。特に後者の場合は、色んな情報から取り残され、自分が正しいという非常に独善的な考えに陥る場合があることを、最近自分が経験した事例から学んだ。

 一方でネット記事は便利で有用であるが、ガセネタや個人の誹謗中傷に発展するものもあり、これに関連した炎上事件も後を絶たない。このように、百花繚乱を競うあでやかさの中に魑魅魍魎がうごめく混乱に満ちた状況の中では、いかに真実にかなった正しい情報を取捨選択していくか、それは個人個人の良心と判断に委ねられていると言っても過言ではなかろう。スマホ1年生の筆者であるからこそ、スマホを含めたITデバイスの正しい取扱い説明書(トリセツ)を改めて構築していく時が、今こそ来たのではないかと痛感している。 

[i] 森田安一『ルターの首引き猫:木版画で読む宗教改革』山川出版社、1993年。